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津地方裁判所 昭和30年(ワ)144号 判決

主文

被告は、原告に対し、金五万円を支払え。

原告のその余の請求を、棄却する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

本判決中、原告勝訴の部分に限り、仮りに、執行することができる。

事実

(省略)

理由

原告主張の請求原因一の事実(注 昭和一五年四月十日妻たいと婚姻し、男子一人女子二人の児があること)については、当事者間に争いがない。

しかるところ、原告は、被告が昭和三十年四月三日午前十一時頃、当時の原告の居宅であつた三重県多気郡三和町大字根倉四四一番地の原告実家の玄関脇六畳の部屋で、折柄、原告等他出不在中、その留守をして針仕事中の原告の妻たいを強いて姦淫したと主張し、被告は、右原告の妻たいと被告の間で、その時、姦淫行為の行なわれたことは認めるが、それは合意によるものであつたと争うので、按ずるに、証人平沢次郎、平沢たいの各証言並びに原被告本人尋問の各結果によると、被告は、右たいが針仕事中の前示六畳の間に立ち入つて、話しこみ、そのうち、話題をあえて情事にうつして、同女を誘惑せんとし、一旦、性交を拒絶されたにかゝわらず、ついに、同女をその場に押し倒して、強いて前示姦淫をとげた事実が認められ、右認定に反する被告本人尋問の結果の一部は容易に信用することができない。

そして、証人平沢たいの証言と原告本人尋問の結果から、原告主張の請求原因三の事実が認められるのみならず、原告のうけた精神上の打撃が並々ならぬものであることは、当裁判所の推測するに難くないところでもある。

そうすると、被告は、故意に、原告が前記たいの夫として有する権利を侵害したものというべく、これによる損害を賠償する責任を免れないものであるから、その損害額を算定する。

証人平沢たいの証言と原告本人尋問の結果によると、原告の実家は、家屋敷の他田畑山林等約八反歩許りを所有するが、それらは、原告末弟のひき継ぐところとなり、原告は、前示事件後、右実家から肩書地に居を移し、前示居町三和町の役場吏員をひき続き奉職し、その給料収入月額約一万三千円を有する他何らの資産を有しないものであり、前示事件当時には、妻たいの他に、某女の面倒をみて、しばしば、その許に寝泊りしていたことが認められ、また、その成立に争いのない甲第一、二号証や被告本人尋問の結果によると被告が田畑一町四反三畝余を有することが認められるところ、被告が右田畑の他家屋敷等を所有耕作し、その長男は、すでに給料生活に入り、町内中流の生活を営むことは、当事者間に争いがないので、原被告双方の資産、社会的地位、原告の蒙つた損害等前示諸般の事情を考慮して、原告が被告の前示所為によつてうけた夫権の侵害に基く慰藉料は、金五万円を相当と認定し、原告請求は、右限度でこれを正当として認容し、その余の部分を棄却すべきものとし訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九十二条担書により、全部被告の負担すべきものとし、なお、同法第百九十六条により、右勝訴部分について仮執行の宣言をなし、主文の通り、判決する。

(裁判官 松本重美 西岡悌次 西川豊長)

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